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かといって書くのが得意なジャンルもない。
もっと修業しま…!
↓1週間暖めてみた。
中世ヨーロッパのテイストを目指したかったんですが
因みにカービィとは関係ないです。多分。
もっと修業しま…!
↓1週間暖めてみた。
中世ヨーロッパのテイストを目指したかったんですが
因みにカービィとは関係ないです。多分。
昼下がり、春の図書室
落ち着いた日ざしが差し込み、優しく部屋を照らす。やがて来る目覚めの季節を祝って、小鳥たちが得意気に調べを奏でている。
陽光の入り込む硝子窓の向こうで、淡い緑に色づいた萌芽が枝枝の間から顔を覗かせる。時折悪戯な風が草木を駆け抜けては、舞うようにその身体を揺らしていた。
春は緩やかに、しかし確実に近づいているのだ。
2月の中旬を迎え、早春の陽気に包まれた、ここウ"ェルトハイム城の一室。
穏やかな光に包まれた部屋には、小鳥のささやかな囀り、学者達がペンを軽快に走らせる音が響いているのみで、他には世界にも誇る数多の蔵書が並んでいるばかり。閑散とした、普段と変わらぬ午後である。
図書室の扉の傍の受付には、椅子に腰掛けて帳簿に目を通している老司書の姿があった。分厚い眼鏡を掛けた顔面に穏やかな微笑を湛えつつ彼は、老眼なのだろう、元々細い目を更に細めている。
ふと彼は、帳面に落としていた目を上げ、室内の様子を見渡した。
そびえ立つ書棚の群れ、それに護られるようにして貯蔵される書物。ブロンズで補強と装飾を施された臙脂色の扉、採光に設けられた大型の硝子窓。
幾つもの窓から闇を割くようにして這入ってくる光の筋が、今は図書室全体を照らしていた。いつもこの部屋は、昼間でも本を読むのには若干薄暗い――窓の数が他の部屋より大きいのは、光をなるべく多く取り込む為の配慮である――のだが、この分なら、今日は学者たちに燭台を用意する必要も無いだろう。
そうして眼鏡を通して見るふちの歪んだ世界もまた、春の澄み切った景色の安穏に満ちていた。
昨春の訪れは遅かった。3月の末まで雪は残り、気温も例年のそれをずっと下回っていた。わりあいに冬の長いこの地域でも平素3月の初旬には雪融けを迎え、中旬までにはそれを終えるので、記録的な長冬だったと言えよう。
そして元来強くない身体には、昨年の長冬は大きく響いた。寒さに弱い彼は、風邪を拗らせてしまったのである。彼だけでは無い、城中に感冒が蔓延して、至るところで咳の音が止まなかったという。
健康を誇る陛下も、昨年は風邪にご苦労なさったと聞く。特に陛下の唯一人のご息女である姫様は高熱を出され、召使の者たちは姫様のもとで看病に付き切りであったそうだ。
しかし今年は暖冬であった。幸いなことに誰彼が寝込んだといった話は耳にしておらず、冬には欠かす事なく体調を崩す彼も、今年は別段病気にかかることなく、この季節を過ごせた。そうして呆気ない程早く、冬は去ろうとしていた。
他国にはここ数年来度々起こる気温差を、異常な気候とする学者もいるらしい。先日そのリポートを入荷し、彼自身も読んだ。もっとも、彼にしてみれば、健康に越したことはないといったところで、ただの一個人の見解として紙束を読み流すのみだったのだが。
(兎にも角にも、今年は穏やかに春を迎えられそうだ)
昨年よりも早い季節の到来に安堵を覚え、彼はやおら帳簿を閉じ、細めがちな目を伏せた。
*
春の微睡みに誘われ、意識は暗闇の底に引きずり込まれる。
そうして暗い海潮の底に横たわり、その本体を波の揺れるままに任せる。
……………さ…
暗闇に沈んでいた頭の中に、人の声が長い尾を引いて谺する。ふと、眠っていた意識がふわり、持ち上げられた気がした。
……司…さ…
突如首を擡げて来る世界。帯びる現実味。掬われて消える幻の海…
「司書さん」
「………はい」
いつの間にやら俯きに居眠りを始めていた老司書は、自分を呼ぶ声で漸く目が覚めた。
「あの、起きていらっしゃいますか」
「あぁ、申し訳ありませんな。居眠りしてしまったようで」
「春眠暁を覚えず。春がやって来た証拠でしょう。今年はご壮健で何よりです」
受付の席の前には、青年が立っていた。一般兵に支給される安価だが丈夫な造りである銀色のメットの下に柔らかな微笑を含み、健康的で清潔な肌の色に、大きくも目線の鋭い黒い瞳をした顔が覗いている。まさに美青年といった言葉が似合う、端整な出で立ちの男であった。
この青年は1年ほど前からここに通って読本を続けており、こうして歩硝や雑用仕事の合間に図書室に来ては書物を読み漁り、休憩時間を費やしているのである。余程のことがない限りは欠かさず毎日ここに来るので、司書の方も顔は覚えていたし、世間話に興じることもままあった。
老司書は俯けて傾いた帽子を直し、眼鏡を上げ、一度居住まいを正した。青年は小さく会釈をすると挨拶を述べ、その手に携えていた分厚い本を5冊、机の上に載せる。
「今日はこれをお借りしたいのですが」
「わかりました。貸出期限は、本日から2週間、ですな。暫しお待ちを」
帳簿を手早く開き、彼は本の題名を一つずつ確認する。
今日彼が借りていくのは、遙か東国の言い伝えを記した記録、世界偉人伝など、外国史書の類のものである。この青年は好んでこういった本をよく借りていくのだった。
全ての図書を確認した後、帳面に青年の名前と著書名、日付を書き入れた。
「はい。確かに貸し出したよ」
「ありがとうございます」
「短期間でこれだけの本を借りるのも、君ぐらいですな」
「はは、そうでしょうか」
青年は本を両腕で抱えた。再び青年は頭を下げ、踵を返そうとする。
と――
「…君がこの城に来て、もう何年になるのかね」
「今年で3年目です」
「そうか。流石にもう、城にも慣れただろう?」
「ええ。好きな本も読めますからね」
「それは好いことです」
自身も無類の本好きである老司書は、嬉しそうに笑みを零した。若者に限らず万人にとっても本を読むのは感心なことだと思うが故に彼は、今の世に貴重で高価なものであるが故に本が流通せず、貴族や王宮付きの学者の為の嗜み、研究材料としてだけ在ることを嘆いた。
だから彼は青年が好んで本を読み、借りに来ることを大いに喜んだ。彼が司書として勤めることを望んだ背景にも、彼自らが本の虫であることが大きく関わっている。
「昨年よりずっと早く、今年も」
「ええ。すっかり春めいて来ましたな」
「すっかり雪も融けて。僕がここに来たときとは大違いだなあ。
――ところで、司書さん」
一度青年は言葉を切ると、
「僕の友人が本を読みたがっているようでして。近々ここに来るかもしれませんが、――その時は宜しくお願いします」
「歓迎しますよ」
「有難うございます」
青年は人懐こそうな笑みでそう言うと、今度こそ踵を返して廊下に通ずる扉を押した。銅の彫刻に彩られた臙脂の板が、重い軋みを立てて開く。青年をその向こうに迎え入れたのち、それは再び悲鳴をあげて口を閉ざした。
広い部屋を、一瞬の静寂が埋める。しかしすぐに、それは鳥たちの歌に攫われてしまった。
「ほ、いい天気だ」
後に残された老司書は殊更愉しそうに呟いた。さて新書の記帳も終わったことだからと、背後の書架から本を取り出して、机の上に広げた。そうしてそれに目を落とし、彼もまた書物の世界に耽る。
落ちかける太陽は笑う。歓喜に踊る鳥たちの歌声は、止む気配を見せない。
風が一陣ひゅうと鳴り、草木を優しく撫でていった。
*Fin
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ふふ(何っ
画力も知力も貰いたいです(オイ
あら… 回復まで時間がかかりそうですね(待て
やはり、カキコミはやる気の源ですよね、
自分にされていいことは、人にもいいことで(笑
とりあえず、草葉の陰で応援させてもらいますね(死ぬなよ
ではでは!
あら… 回復まで時間がかかりそうですね(待て
やはり、カキコミはやる気の源ですよね、
自分にされていいことは、人にもいいことで(笑
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★ みそか(3/29時点)
● HN : 晦(つごもり)
● 性別 : ♂と見せかけて♂
● 職業 : 学生
● 特徴 : 超絶ポジティブ。
ジャグリングやってる。
スピッツとカービィ大好き。
● 一言 //
春休みなんだそうです。
● ブログ名について //
特別理由のないフィーリング。
出発点は『春風駘蕩』
のんびりしていて温和なこと。

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